第5章 病室の患者のゆとりを測る
5.1 病室での視野と作業域(操作域)
操作のしやすさ
装置が操作しやすいということは、見やすいことと操作しやすいことの二つに分けて考えられる。これらを専門用語では、「視野」と「作業域」と呼ぶ。視野とは作業する際に見やすい領域であり、作業域とは作業する時の作業しやすい領域であると考えることができる。操作域と呼ぶこともある。「視野」と「作業域」は、いずれも重要なので、エルゴノミクスや人間工学を扱った本にはよく出てくる。
「作業域」に近い用語として、可動域・操作域がある。第2章の関節可動域は、可動域・操作域の生理的な基礎情報である。
図5.1. 病室の仰臥患者の水平作業域 図中にベッドと床頭台が描かれている
図5.1は水平方向の作業域を表している。両目の中心を0度とし、左右対称にものの見え方の違いを角度で表す。人間は角度によって見え方が図の中に記してあるように異なる。なお、この図は、頭を前方に固定し正面を注視した状態での作業域を示している。常識的に、領域の真ん中がさらに操作しやすい領域である。後で述べる視野も同様である。
同様に図5.2は、垂直方向の作業域を表している。
図5.2. 病室の仰臥患者の 垂直作業域
視野 水平面
患者がベッドで仰臥し、枕に頭を付け、首と眼を動かすことで見える範囲を図に描いた。図5.3 は、男子の場合である。この図を見ると、床頭台はよく見えるゾーンに入っている。
図5.3 男子の視野
従って問題ないと言える。しかし、ベッドの高さと床頭台の高さの違いもあり、実際は、見えにくい方にシフトするであろう。ナースコールのボタンの位置については、後で述べる。
よく見えて手も届く場所を考えてみよう。なぜかというと、見えることと手が到達することが併せて実現されて、床頭台が患者にとって使いやすくなるからである。この目的のために、図5.1と図5.3 を重ね合わせてみる。それを、図5.4 に示す。
Aは、重ね合わせた領域である。さらに図5.2 垂直作業域を加味して三次元的にベストな領域が特定できる。図5.4 のB はナースコールボタンのベストポジションである。よく見られるのは、頭の先のボードにくくりつけたりコネクターからぶら下げる方法である。
図5.4 よく見える領域と手が届きやすい領域の重ね合わせ
図5.5 は 病室の実例である。
図5.5 (写真)病室のナースコールボタンと床頭台 宮崎大学病院
視野と作業域の応用は例えば、以下のような例である。
・車椅子で、ハンディキャップが食器を取り出しやすい食器棚を製作する場合、そのハンディキャップ特有の作業域が設計のために必要となる
・オフィスのためのVDTワークステーション
実際に即して、この視野や作業域をどのように調べるのかについては演習で行う。
VDTワークステーションについては、第6章で詳しく述べる。
5.2 基礎知識としての視野と作業域(操作域)
病室のゆとりを測ることに関してベッド上の患者の作業域について述べ、患者の視野の範囲内にあることも重要であることを述べた。
図5.6は水平方向の視野を表している。両目の中心を0度とし、左右対称にものの見え方の違いを角度で表す。人間は角度によって見え方が図の中に記してあるように異なる。なお、この図は、頭を前方に固定し正面を注視した状態での視野内の見え方を示している。
図5.6 水平視野の基礎データ 欧米人の場合
図中の中心視とは、眼の網膜のごく一部で視力が高くその範囲は中心から半径一度であることを示している。文字の眼球が回転して見たい対象に、その視力の高い網膜位置を合わせる。これを眼球運動と呼ぶ。文字が識別できるのは、半径10度くらいである。より広範囲で物体を認識することも可能である。これを周辺視と呼ぶ。それはおぼろげに分かることである。その程度でも、危険予知などに必要であるから、生活上欠かせない。
図5.7は、垂直方向の視野を表している。この場合も水平を0度として表すが、人間の視野は上よりは下を見やすくなっているという点が水平方向とは異なる。
図5.7 垂直視野の基礎データ 欧米人の場合
次に
図5.7は上から見た両腕の作業域を表している。この図では、両手を楽に動かせる範囲 (通常作業域) は実線で、手を伸ばした場合に届く最大の範囲 (最大作業域) は破線で描かれている。作業のしやすさは距離と密接に関係している。最大作業域以上に離れると、場合によっては立ち歩かなければならない場合もある。
図5.8は上から見た両腕の作業域を表している。この図では、両手を楽に動かせる範囲 (通常作業域) は実線で、手を伸ばした場合に届く最大の範囲 (最大作業域) は破線で描かれている。作業のしやすさは距離と密接に関係している。最大作業域以上に離れると、場合によっては立って手を伸ばしたり歩かなければならない場合もある。図5.8は上から見た両腕の作業域を表している。
図5.8 上から見た両腕の作業域 単位 cm
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