(4) 安土桃山時代 本能寺と嶋井宗室の椅子
福岡市立博物館に椅子に腰かけた博多商人嶋井宗室(生年不詳 没元和元年1615年)の肖像画があります。人物を左斜め後ろから描いたものでモダンな感じです。
写真1 虚白軒主端翁宗室居士画像
同館の学芸員堀本一繁さんに説明いただきました。宗室の肖像画は、正面からのものもあり端翁宗室居士画像です。この像では、宗室の顔は写実的で髭の様子まで分かります。これに比べると、写真1は残念ながら全体が茶色く変色しております。それもあって、顔の描き方は、おだやかな表情です。椅子(曲禄)の背に山水画が描かれており、脚部の木目もはっきりと分かるところが、椅子の研究者としては興味深く思います。
嶋井宗室は、大友宗麟1530~1587支配下の商人です。宗室は、山上宗二(利休の弟子秀吉の怒りを買い打ち首)・千宗易(利休のこと)らと、茶の湯を介した交流を深めています。また、宗室は、織田家中の武将とも交わり、茶会記に記されたものだけでも明智光秀・松井有閑らが、挙げられています。本能寺の変の首謀者である光秀には、変の約4ヶ月ほど前の1月25日近江坂本城に招かれています。
茶会記によると、宗室の上方滞在は天正10年4月15日まで確認できます。宗及らとともに、松井有閑の集会に招かれたのを最後として、その後確たる資料がありません。天正11年6月22日付宗室宛千宗易書状で宗易は、秀吉とともに宗室上洛を心待ちにしていることを述べています。この日付け以前に博多に戻ったと考えられます。本能寺の変の前日にあたる6月1日、信長は本能寺で、名物披露のため公家僧侶40名を招いており、この他の客に、地下者少々とあり、この中に宗室が含まれていたのか確かめることできません。信長と宗室の直接的結びつきを示すものとしては、いくつかの資料が、伝存しており重要なものに、天正10年正月19日、松井有閑書状があります。
写真2 松井友閑書状
堺町衆信長の命令を伝えたその書状で、信長は上洛に際して名物道具を特に宗室に披露するために、宗室招待の茶会を企画したことが分かります。
宗室が天正10年本能寺の変の前日同寺で信長に招かれたとされる本能寺はどのような寺なのでしょうか。京都市埋蔵文化研究所を訪問し資料課長の辻 純一さんからうかがいましたところ2007年に本能寺跡の発掘調査が3箇所実施され、2002年の調査と照合した結果、その位置が確定されました。調査の成果として鬼瓦や「能」の文字の軒丸瓦や石垣の一部(写真3)が発掘されました。この発掘調査で明らかになったことは、本能寺の周辺は堀で囲まれ一部石垣を積み上げ(写真4)、瓦葺きの建物があり火災で焼失(多くの焼けた瓦が出土)したことです。16世紀末には埋め立てられ整地され秀吉に寺の移転を命じられたのは「天正17年(1589年)」です。本能寺HP http://www5e.biglobe.ne.jp/~hidesan/honno-ji.htm そして本能寺が寺町御池に完成し移転したのが天正19年でした。文献京都市埋蔵文化財研究所 発掘ニュース 82 2008
その後秀吉の都市計画により天正19年(1591)寺町御池に本能寺は移転し現在に至ります。
写真 3 鬼瓦や「能」の文字が浮き出た軒丸瓦
写真 4 石垣の一部
秀吉の正妻寧々の終焉(1624)の地が圓徳院(1605客殿(現方丈)建立)です。2009年、高台寺で伝統文化・芸術総合展に私の椅子が展示されました。そのおり、圓徳院閑栖住職後藤典生さんに座っていただきました。
写真5 寺椅子に腰かけた高台寺執事圓徳院閑栖住職後藤典生さん 高台寺の洗心寮にて
さらに、住職にお願いして圓徳院方丈に寺用椅子を置き撮影しました。折からの紅葉に椅子が映えました。
写真 6 圓徳院方丈から南庭におかれた現代の寺椅子
謝辞 福岡市博物館学芸員堀本一繁さんと京都市埋蔵文化財研究所資料課長辻 純一さんからうかがったことに加え、以下の資料から大きく引用させていただきました。
引用資料
堀本一繁、織田信長と嶋井宗室 茶道研究ノート7、茶道誌 淡交 No.624 第51巻第8号 1997
福岡市博物館 博多の豪商―嶋井宗室展 図録 1992
京都市埋蔵文化財研究所発掘調査報告 2007-11平安京左京四条二坊十五町跡・
本能寺城跡
京都市埋蔵文化財研究所 発掘ニュース 82 2008
Memo
福岡市立博物館 福岡市早良区百道浜3丁目1-1 電話092-845-5011 http://museum.city.fukuoka.jp/jc/jc_fr2.html
財団法人京都市埋蔵文化財研究所 京都市上京区今出川通大宮東入元伊佐町265 番地の1
電話 075-415-0521 http://kyoto-arc.or.jp
圓徳院 京都市東山区高台寺下河原町 530 電話 075 525 0101
http://www.kodaiji.com/entoku-in/idx.shtml
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