日本人間工学会第52回大会 特別講演会の一部

目的 国際的なマーケットに参入可能な家庭用キッチンナイフの開発

ナイフ についての研究は、たとえばMarsot(2007)のように、多くの研究が食肉産業―解体を対象としている。ハンドルについては、Hrsfall(2005)はナイフのハンドルの形がstabbing performanceに及ぼす影響に付いて扱っている。料理用のナイフ についての研究は、ほとんどない。産業でのmeat cutting operationsと比べると料理のためのカッティングは、以下の2点が特徴である。1) 食材を切る作業は、食肉産業―解体と比べて、小さな動きである。2) 発揮する力は少なく、長時間持続することは無い。家庭用キッチンナイフの開発を行う。

研究方法の開発は、料理のために食材を切る作業での手指・掌の役割とハンドルの形状の関係を動的に明らかにすることである。

調理法は、西欧と日本では大きくことなる。日本では、千切りや刺身を引く際に切り身の切り口を美しく、新鮮に保つといった独特の方法がある。ヨーロッパ人のじゃがいもの皮むきは日本人と違う。食肉産業とまでいかずとも、硬い肉を押し切りするといったことも家庭で行われる。実験としては、筋電図の測定をベーコン切りについて行ったが割愛する。

家庭用の国際商品を開発するためには、それなりの開発機構が必要である。これについては、最後の触れる。

物作りのプロセスは、デザイン(ハンドルと刀身)に加えてハンドル材・刀身材料等の決定も必要である。ここでは、ハンドルの開発のみ説明する。

 

コンセプトのモデルへのたたみこみ

八角和包丁の長所は、握ったとき手懸かりがあること滑らないことである。 開発において、八角形の各稜線が座標として使えるので手のひらとハンドルが接する面の計測や設計に便利である。これを開発の基本とした。造形のためには、粘土や石膏を使う。

図1コンセプトのたたみ込み

図1 物作りの過程(コンセプトのモデルへのたたみこみ)

 A 伝統的な和包丁 BとC 粘土による造形 D 3次元計測と作図

 

図1は、掌とハンドルが接する面を作る大切なプロセスである。型どりの時のハンドルの握り方は、調理法により変わる。手の大きさも大小あるから、この作業は、エルゴノミクスの方法である人体計測データベースや調理法の知識が必要である。この写真の粘土の芯として木の棒が見える。

図1のCは、手を離したときの「型」である。この型の形状を測定する。この場合の木の棒は八角形である。この形は写真2の和包丁の高級品と言われているA八角和包丁から来ている。八角形の長所は、握ったとき手懸かりがあること滑らないことである。 開発において、八角形の各稜線が座標として使えるので手のひらとハンドルが接する面の計測や設計に便利である。造形のためには、粘土や石膏を使う。椅子の座面や背当ての場合も似た方法を用いる。D スケッチや図を描く。修正箇所について色々な書き込みがしてある。最後に、図面を制作する。実験用樹脂モデルを作り実験を行う。

実験 Pressure imagingパッドを用いる。このパッドは、0.5inchのセンサー(cell)が36cell×36cell が敷き詰められている。このパッドをハンドルと手の間に挟む。ハンドルを握るために手に力を加えるとそこに生じるsurface contact areaの圧力分布および食材を切る作業の間に生ずる圧力の変化の測定が可能となる。

手についてのレイヤーとハンドルについてのレイヤーに関するデータは、Pressure imagingパッドに、あらかじめ手の各所とハンドルの特徴点の位置情報を登録することで得ることが出来る。(Integrated Pressure Mapping Method Noro et al. 2011)

図2試作品t5D2K hand

図2 解析例 大根の輪切りの場合のグリップ圧力の変化

 そのほかに日本人や海外の主婦やシェフの使用感を確かめる。

 

手で握る時、装置と手の間に接触面が形成される。この接触面は、ひととものの間のインターフェースである。このインターフェースは、図3の様に分解することが出来る。分解された面はそれぞれがレイヤーと考える。

 

 Decomposition

 

図3  Decomposition of an interface

 

このような多層のレイヤーにより構成されるインターフェースは、主に二つの目的を達成することが出来る。すなわち、上方へ向う研究のフローを辿ると人間の手に、作業が及ぼす影響を知ることができる。その反対に下方へ向う研究のフローを辿ると、ナイフのデザインに関する評価や開発の情報を得ることが出来る。

 

結論

試作品と他の競合品を用いて、食材を切る作業の手指・掌の役割とハンドルの形状の関係を動的に明らかにした。得られた情報からハンドルを操作する手の働きとハンドルの人間工学的な考察を行い、商品を完成させた。

ハンドルを握るために手に力を加えるとそこに生じるsurface contact areaの圧力分布の測定を行なった。得られた接触面圧の曲線から作業における手とハンドルの関係を明らかにした。