第6章 椅子・パソコンと健康障害

 

最近の看護師国家試験では毎年この章の内容に関わる出題がある。

最近は、PC ワークといった言い方が普通になったが、80年代から使われている用語に、「VDT」という言葉がある。「VDT」という用語は現在でも使われることがあるので、これについて、説明しておく。 VDTのV は、Visual Displayつまりコンピュータの画面を意味し、T はTerminal。端末を意味する。目で見るディスプレイの端末ということである。オフィスのなかで、われわれを取り巻いている環境はVDT環境という。

さて、会社や住まいでのコンピュータ作業は、

肩こり

腰痛

足のむくみ

眼の疲労

といった不健康な訴えを起こす恐れがある(これをリスクファクターという)。

これらを予防するための人間工学を述べる。まず健康管理の基本は次の通りである。

 

健康管理の基本

職場で長期間にわたり健康に仕事をするために、作業者が心がけねばならないことは、作業者の能力と業務上の要求の間でバランスを保つことである。たとえば残業が続いて最後には、体を壊すことはよくあることである。

 

6.1 筋骨格系障害の概要

オフィスで見られる疾患は次のようである。

・使い過ぎ症候群

・手根管症候群

・反復性過労障害

・テニス肘

・四十肩、五十肩

・筋肉の緊張と肩こり

・腰痛

それぞれ詳細は、整形外科学の領域であるので、それにゆずる。

 

6.2 眼の疲労

視覚をつかう作業に避けて通れないのは眼の疲労である。

ディスプレイをずっと見つめていると、ピントあわせを行う毛様体筋は常に一定の緊張を強いられ、疲労してくる。このためピント調節力が低下し、遠くや近くを見た時に、なかなかピントが合わないことがある。遠くを見て毛様体筋の緊張をほぐすと、ピント調節の疲れを予防できると言われている。近視のひとは、毛様体筋を緊張させずに近くにピントをあわせられるという利点がある。老眼のひとは、PC作業用の老眼鏡(40~70cm)と、デスクワーク用の老眼鏡(30~40cm)を作るとよい。                                  

ドライアイ: 目の表面はいつも涙でうるおっている。涙はまばたきを行うと目の全体

に行き渡る。

ところがVDT作業をすると、目を大きく開いたり、まばたきの回数が通常の4分の1に減ったりして涙の乾燥が早まる。目の乾き、不快感、痛み、充血など、さまざまな症状が現れ、これをドライアイという。ドライアイを予防するには、ディスプレイを目の高さよりも下に置き、目を伏せた状態で作業できるようにする。また、書類を見たり、電話をかけたりといった業務を、VDT作業の合間にはさむようにするとよい。

パソコン作業に適した度数の入ったメガネ

眼の疲れを少しでも少なくするためにパソコン作業に適した度数の入ったメガネを使うことも推奨される。

 

本書では範囲外なので扱わないが知っておくべきこと

注1 オフィスの環境 (シックビルディング症候群)

オフィスの新築・改装による「シックビルディング症候群(俗称=シックハウス症候群)」や、専門業者による定期的な清掃やワックス、薬剤散布などにより化学物質過敏症(CS)を発症した患者は、実はかなり多いといわれる。この問題は、企業で働く看護師や保健師は関心を持つべきことは当然である。

注2 累進レンズの種類は遠近両用・中近両用・近々両用ある。

注3 手根管症候群

手首横靱帯と手根骨により手首内部のトンネルを形成している。(Carpal tunnel)

このトンネルのなかを、正中神経と9本の指を曲げる筋肉の腱が通っている。このトンネルのなかで神経が慢性的な圧迫を受けて、しびれや痛み、運動障害を起こす病気である。図6.1 参照

 図6.1

 

 

図6.1  手根骨と掌

 

 

6.3 正しい姿勢調整の方法

VDT作業は、作業者に眼、掌や心身面で負担をかける可能性がある。そのために、負担を軽減して健康障害を予防することが必要である。そのためには、作業時間、作業量の規制や適切な作業編成などの配慮が必要である。このような配慮を作業管理と呼ぶ。                             さらに作業者個々の作業環境は、身体の違い(身長、年齢、視力等)や職場環境の違いがあるので、作業者個々に行う必要がある。あらためてその目的を記すと

・能率

・快適性

・健康 

が挙げられる。

より具体的には 

・画面がよく見えるか

・キーボードやマウス等の入力デバイスの操作がうまく行えるか

・腰や足が痛くならないか 

などである。

全体として、快適に作業が続けられるということが、アジャストの目的である。   

VDT環境のアジャストは、次の段階で行う。 

第1段階 椅子の調節(アジャスト)…椅子を使っている人に合わせる

第2段階 キーボードの調節…高さ角度を使っている人に合わせる

第3段階 画面の見え方の調節…コントラスト、輝度などの調節によりその人に合った見やすい画面にする。 

次の三つの図は、 ノート型の場合の、個人に合わせるためのアジャストの図解である。 

 図6.2

 図6.2   PC を使う作業でのおすすめ姿勢  アップライト姿勢 

 

この姿勢は、標準とかスタンダードといわれるものでテキストなどでも見かける姿勢である。しかし、現実には、もう少しくずした姿勢が多い。

 図6.3

 図6.3 楽に見える視野角 これは、5章の垂直視野の応用である

 

 6.4 環境を作業しやすいようにする 

仕事をする空間と設備全体の呼び方として 

・仕事空間

・ワークプレイス

・ワークエンバイラメント 

などが最近よくつかわれている。個々に、若干のニュアンスの違いがあるにしても、おおよそ同じような意味である。  

環境の物理的な要素も非常に重要で、これらは人間の身体の生理的要素や心理的環境に影響をおよぼすものである。具体的には作業スペース、温/湿度環境、照明環境、音・騒音環境などが存在する。  

 

オフィスの照明のコントロール 

 図6.4

 図6.4 照明の基本

照明器具(施設用照明器具 遮光角制御形器具)も作業用がある。作業用照明にはスリットが入っている。ルーパーとも呼ぶ。このルーパーによって光を左右に逃がさずに真下に落ちるようにしている。すなわち光の下方への直進性を非常に強くしているわけである。

これはオフィスにおいてコンピュータの画面を使う時に画面に光が反射しないように直下型の光だけをできるだけ出すようにするためである。すなわちコンピュータを扱う人が眩しくないことを考慮している。これはVDTにおける空間の開発の一環であり、基本的な空間の処理のひとつである。 

ただ横方向に対する光を押さえると部屋の壁を照らす光量が減少し部屋全体が暗い雰囲気になってしまう。従ってまた別の照明の方法をプラスするなどして部屋全体を明るくすることも必要になってくる。  遮光角制御形器具については、たとえば下記のカタログでも、施設用照明器具のセクションで、詳しく扱っている。

  http://eco-net.tlt.co.jp/eco-net/catalog/pdf_b/a420061_.pdf